7days, seventhday

◇6

伊沢は自分のことをどう思っているだろう。
アキラには分からなかった。


そもそも、アキラには他人の思っていることが手に取るようにわかった、という
ようなことは過去になかったし、特に伊沢が何を考えているかなんて、ずっと
ずっと考えたけれど答えが見つかりそうもない、とわかっただけだった。

けれど知りたい。
これほど他人の心が知りたいと思ったのは人生で初だったかもしれない。
それほどに今、アキラは伊沢が何を思っているのか知りたかった。



伊沢は優しいから、自分が「話がある」といえば今のように場所を変えてでも、
自分の話を聞こうとしてくれる。
でも、騙して、利用して、伊沢にひどいことをし続けてきたこんな自分を、
伊沢が許しているものかと思う。
きっと、許してはいないだろう。
ただ優しいから、こうして見捨てられないだけ。
自分の話を聞こうとしてくれるだけ。

胸が痛かったけれど、とにかく玉砕覚悟でやってきたのだ。話だけはしたかった。
どれだけ呆れられても、自分の気持ちを言うしかない。
ダメでも仕方がないし、当然だ。
これは自分の気持ちに決着をつけるためのものだから。


……怖い。
時間が経つのが怖い。
こんなのは初めてだ。
自分から話すことを望んだのに、車が止まってしまうことが怖い。
伊沢はいつもどおりの安全運転で静かに車を走らせている。
だからすぐには着かないだろうけれど、だけどいつかは着くのだ。
怖くて伊沢の顔が見れない。


窓から外の景色を見ていると、かつてを思い出してくる。
よく、伊沢に家まで送ってもらった。
この助手席に乗って。
伊沢はあまり話すほうではなかったけれど、自分の何気ない話にも丁寧に相槌を
打ってくれたり、静かに自分の考えを話す様子が好きだった。

あの時は、男の友情だと信じきっていたけれど。
……伊沢の態度も、自分の気持ちも。



ふ、っとつじつまが合う。
ああそうか。
こんなに長く、好きだったんだ。

自然、心が軽くなる。

今彼の助手席に座る自分がとても素晴らしい存在に思えて。



高村さんが好きだ。
遊佐が好きだ。

伊沢が好きだ。


こんなに色んな「好き」を人が持てるなんて知らなかった。
なんて素敵なことなのだろう。


赤信号で、車が止まる。一瞬の揺れ。


ふと我に返った。
自分のしたことを。


気分が沈む。
こんなに好きなのに、気付かなくて伊沢にどれだけ嫌な思いをさせたのかわからない。

心の中でアキラは伊沢に謝った。
思わずこぼれそうになった涙を隠す為、一層顔を背ける。

ごめん、伊沢。
でも、これで最後だから。
最後でいいから、

俺のわがままを、最後に一度だけ、許して欲しい。

許されるものなら。



伊沢が車を止め、目的地に着いたことを示すように
サイドブレーキをかけた。

▲Readings △Once More
▲Past ▼Next

Since:2004/01/27 (C)Shirasagi